「仲間として遇してくれて、決して子ども扱いしないという公平な大人」

海浜動物医療センターにはときおり、中学生が職場体験にやってきます。午前9時から午後3時ごろまで、診察の様子を見学したり、裏方の仕事(掃除や資料作成)を経験したりします。

彼・彼女たちが大人になるのは少し先ですが、彼・彼女たちは将来、ペットの飼い主になるかもしれず、あるいは獣医師や看護師になるかもしれません。私たち動物病院の世界を少しでも知ってもらうことは、獣医療の世界の発展のためにはとても大切なことだと考えています。

職場体験ではいろいろな質問を受けます。

「この仕事のやりがいは何ですか」

「この仕事はどこがむずかしいですか」

わかりやすい言葉で伝えることを心がけて、説明します。決して子ども扱いせず、その子の理解力に応じて、なるべく正確におもいを伝えます。それがなかなか難しいです。作家の安部公房氏はなにかのエッセイで「主婦が買い物に行って、帰ってくるまでに使う言葉で小説を書きたい」と記していましたが、たしかにそれができれば素晴らしいとおもいます。

日本経済新聞・11月23日付朝刊「半歩遅れの読書術」に、俳人の坪内稔典氏の文章がありました。生物学者の福岡伸一氏の言葉が紹介されています。

メンターとは、「仲間として遇してくれて、決して子ども扱いしないという公平な大人」

子どもたちは体と年齢が、大人よりも何回りか小さいだけ。その魂までが小さいわけではない。

職場体験を歓迎します。ぜひ、私たちの職場を知っていただきたいとおもいます。私たちは表も裏もなく仕事をしているつもりで、実際にそうでありたいと考えています。

さて、話は少し変わりますが、坪内さんはこんなことを書いています。

人は学習や経験を重ねながら、おのずと専門性を高める。その場合、専門性ばかりに集中すると、魅力的な専門家になれない。靴職人、大工、研究者、俳人、その他もろもろの専門家たちは、専門性を高めながら、同時に非専門性を豊富に抱き込まなければいけない。そうしないと魅力を欠く。以上のようなことを、いろんな人と出会って私は実感してきた。

専門性を高めることは、仕事のやりがいでもあります。ただ、勉強に熱中するあまり、つい視野が狭まりがちです。早速、坪内さんが紹介していた、福岡伸一著『ナチュラリスト』を注文しました。

タイトル写真は、子どもが通う幼稚園で拾った葉です。3歳の次男が「きれい」と言って、自宅に持ち帰ってきていたので、私も地面に落ちていた葉をながめてみました。人には作り出せない美しさ。たった一枚の葉でも、つかみきれない豊穣。それを見逃していた私と、それを見つけた3歳。

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