信頼を裏切ること

海浜動物医療センターには日々、さまざまな動物たちがやってきます。的確に治療をはじめられることもあれば、診断に苦慮することもあります。日々、知識と技術の習得を心がけているつもりではありますが、飼い主さんの期待にこたえられないことも、正直にいえば、あります。

「そんな話は聞いていない」「信頼していたのに、裏切られた気持ちです」

飼い主さんから怒りや憤り、かなしみの言葉を頂戴することもあります。いわゆるインフォームド・コンセント不足=説明不足だったり、力不足だったり、誤解だったり、その原因は一様ではありません。

私はこのブログで、理想的なこと、格好いいことを書いていますが、獣医師になって、飼い主さんから憤りの言葉を受け取ることは(もちろん、まれではありますが)あります。こちらに明らかな落ち度があれば、謝罪します。こちらに原因がなかったとしても、いま、飼い主さんとペットが苦しんでいる事実は厳然としてあるわけで、そのことに申し訳なさを感じます。

99回、期待にこたえる診療をしても、1回であっても、信頼を損なうことがあれば、それまでのことは、飼い主さんにとっては無意味になります。私たち動物病院のスタッフにとっても、それはとてもつらいことです。どんなに一生懸命に動物たちのケアをしても、1回のミスでそれまでの努力は水の泡となる。飼い主さんの心を傷つける。本当に申し訳ないと感じます。

もう何年も前になりますが、私はそれは間違った考え方だとおもうものがあります。あるコンサルタントの方がおっしゃっていたものです。

「(野球選手の)イチローだって、打率は3割台。診断も3割あたればいい」。

それは大間違いだとおもいます。それは獣医師サイドにとって都合のいい言葉に過ぎません。名医であっても、診断が100%正しいことはありえません。確定診断を下せないこともあるでしょう。臨床医をやっている人間なら、100%など存在しないことは重々承知しています。それでも、私たちは100%を目指さなければなりません。飼い主さんにとっては、そのペットたちにとっては、100%でなければ困ります。獣医学の限界を伝えることは伝えますが、はじめから、100%なんてない、などど開き直ることはせず、やはり、あらゆる飼い主さんの信頼と期待にこたえることが、私たちの責務だと考えます。

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